エッセイ

鼻血は頭の調整

頭の打撲のあとの鼻血は、頭の調整のために起きた排泄です。鼻血が出ればひとまず安心です。

女性の生理が体全体の掃除であるように、子どもの鼻血も幅広い守備範囲を持った調整手段です。

 

転んで頭を打つたびに、とても神妙な顔をして操法を受けに来る幼稚園児がいます。そういうときの彼は、待ってる間もきちんと正座をしてジッとなにかを考えています。

いつも生傷の絶えないような彼が、頭を打ったときだけ神妙になるわけは、頭を打った日の夜はいつも鼻血がたくさん出るのです。

洗面器に溜まった大量の鼻血が自分の体から出たものだと思うと、厳粛な気持ちになるようです。

彼が鼻血を出しやすいわけは、頭の過敏にありました。

彼のお母さんは、彼が鼻血を出すたびに「これで頭が良くなる」と思っています。それは打撲の影響が解消されることだけではなく、彼の頭の中に消してあげたいものがあるからです。

 

 

幼い彼は、夜中に突然起きて不安で泣き叫ぶことも多々ありましたし、一日中ひとりでしゃべり続けたりする癖もありました。そういった落ち着かない心が穏やかになったらいいなとお母さんはひそかに願っていました。彼の不安の原因を探せば、自分自身の妊娠中の行動が思い当たってしまうからです。

生まれる前から彼にはずいぶん怖い思いをさせてきました。

暴走族同士が木刀を持って喧嘩しているのを止めようと割って入ったとき、お腹の中でグルグル回って怖がっていたのを覚えています。もしあのとき、まちがってお腹に木刀が当たっただけでも大変なことになったのに、そんなこともわからず本当に迂闊でした。妊娠しているのに夫婦喧嘩をして走行中の車の助手席から飛び降りてしまったこともありました。出産直後に大震災があって、狭いアパートの部屋から出ないで息を詰めて暮らしていたのも彼には怖かったのだと思います。

そんなことが原因かもしれないと思っていました。

 

だから息子が鼻血を出すと、お母さんは期待をこめて洗面器を運んでいたのです。そしてあるとき、いつもの洗面器では足りないような大量の鼻血を出すときがやってきました。

準備が整ってその時機が来ると、過去にさかのぼった深い調整ができます。

翌日の彼は、いつもとは違う頭のスッキリした落ち着きのある顔をしていました。今回の鼻血で取れたものは前日の打撲だけではなく、過去のもっと深いものだったようです。

過去の怖い思いを鼻血で出すことができるなら、彼が頻繁に頭をぶつけて鼻血を出したのはもしかすると意図的だったのかもしれません。頭の中のなにかをとり出したくてぶつけていたのかもしれません。

無垢な心を持つ子どもにはこういうことが起きやすいのです。余計な力みが取れてくると、自分がよくなるために必要なことが自然に起こります。