エッセイ
頭が悪そうな人は本当に頭が悪い
Yさんは、とてもほんわりとした雰囲気を持つ女性でした。いつもゆっくりと喋ってゆっくりと答えていました。ゆっくりというよりピントがずれているというか、直接話していてもまるで衛星回線で話しているような微妙なタイムラグを感じました。操法に対する体の反応も同じように遠回しな感じで、なにかが変なのですが、なにが変なのかがしばらくわかりませんでした。
なぜわからなかったのかというと、「頭は悪くないのだ」と思っていたからです。
頭が悪いように思えてしまうのはこの人のキャラクターであって本当は頭が悪いのではないという思い込みが人を観るために必要な直感を妨げていました。
あるとき、やっぱりこれは頭が悪いのだという別の意味に気付いたら、いままでどうしてもつながらなかった全身を俯瞰する歯車が回り始めました。
Yさんは頭の打撲でした。
十代の頃、勉強を教えてくれていたお兄さんが、Yさんがなかなか理解できないことに腹を立ててフライパンで頭をおもいきり叩いてしまったそうです。傷が治ってからも頭がボーッとしているので変だなとは思っていたようです。
頭の中の冷たくて反応しない部分を探しながら手を当てていると、中からもっと冷たいものや熱いものが表面に出てきました。そして操法を受けた後は頭が割れるような激痛や発熱が起きて、その翌日にはスッキリするというのがお決まりのコースになりました。それをなんども繰り返すうちに頭の中で気の流れを邪魔していた古い異常がだんだんと取れてきて、頭が回転しだしました。
会話はずいぶん普通になってきました。やはり、もともと頭が悪かったわけではないのです。
Yさんの頭が打撲の異常だとわかると、他の会員さんの中にも似た感じの、会話の速度が妙にゆるい人たちが何人かいることに気がつきました。その人たちに頭を打ったことがあるのか尋ねてみると、音楽室で座っていたらピアノによりかけてあったコントラバスが倒れてきてヘッドの部分で頭を直撃されて気絶したことがあるとか、体育館で座っていたらバレーボールのネットを張る鉄柱が後ろから倒れてきて頭が割れてコートが血に染まったことがあるとか、痛そうな話がたくさん聞けました。みんな頭が悪かったのではなく、打撲の異常だったのです。
(手当て)
頭の異常には、とにかく手を当てることです。
Yさんのように成人して時間も経っている人の過去の打撲の処置は、専門的な難しさがありますが、打撲から時間の経っていない、しかも成長途中の子供だったら、お母さんがやっても十分です。
小児麻痺のような脳性の異常も、小さいうちから毎日繰り返し手を当てていくことでずいぶん変わります。まったく痕跡の残らないほど治してしまったお母さんもいます。
出産時に時間がかかって、頭の血行に影響が残ったり、頭骨が大きく歪んでしまっている場合も頭に手を当てることで改善されます。手で頭の形を変えるのではありません。触れているだけで頭が中から膨らんできて、自分で形を修正していきます。
この時、頭の形が変わることを目で見ることはできません。それは、植物が芽吹くのと同じようなスピードで変化するからです。一つのところを数日かけてみるようにしていくと変化がわかるようになります。